martin's kitchen

料理のことを書いています

蟹が息子に教えてくれた食べるということ、命ということ。

少し前の話になるが、家族で築地へ行った際に生きたモクズカニという上海蟹の一種を買ってきた。

前に作ってあげたワタリガニのお味噌汁が美味しかったようで息子の希望で買うことになった。

買い物をすまして帰宅したのが15時。ご飯を作るにはまだ早い。蟹をシンクに放しておくことにしたら長男がやってきて観察を始めた。

最初はおっかなびっくりだったがすぐに慣れて、お腹空いてるかも!と水をかけたりしはじめ、なんだか可愛がりはじめた。

長男にとって生きた蟹と触れ合うのは初めてで動物好きだから楽しかったのだろう。

その時点で嫌な予感はしたのだが、調理の時間がやってきて予感は的中。

長男「蟹さん、明日食べる。」

そらきた。

長男「蟹さんとお別れしたくない」

そうなるよね。。しかし、蟹は明日まで生きているとは限らないし、そもそも明日になったところで長男が納得するとも思えなかった。

なにせ、長男にとって生き物との別れは初めて。この後の展開を想像すると辛い気持ちもあったが、心を鬼にして長男に告げた。

「ダメだよ。蟹さんはシンクで飼えないの。食べるために買ったんだから、今日食べるよ。」

長男が泣きはじめた。

長男「いやだ!お願い!蟹さん食べたくない!」

その後も問答が続いたが、長男を振り切って、沸騰した鍋の中に蟹を入れて蓋を閉めた。

泣き叫ぶ長男。

調理にならないため妻にお願いして、妻がなだめてくれたが、その後もずっと泣き続け、最後は泣き疲れて寝てしまった。

その後、茹でた蟹をハサミで真っ二つにして鍋に戻し、蟹のだしが効いた美味しい味噌汁が出来上がり。夕飯の支度が整ったので長男を起こした。

長男は起きた後もずっと泣いていた。予想以上の反応にトラウマになってしまわないかちょっと心配になったが、妻が命について、食べるということについて、丁寧に説明してくれて、長男も徐々に落ち着いたので、夕飯にした。

長男の気持ちを考え、味噌汁には汁だけ入れ、蟹は見せないようにしてご飯を食べた。

いつもより静かな夕飯だった。

食べ終わった長男が「蟹さんはどこ??蟹さん見たい。」と言うので、手を繋いでキッチンに連れていき、真っ二つになった蟹さんを見せた。

長男は静かだった。一生懸命気持ちを整理したんだろう。落ち着いたものだった。

長男「蟹さん死んじゃったの?」

「うん。。そうだよ。蟹さんは死んじゃったけど、おいしいお味噌汁だったでしょ?」

長男「うん。。でも悲しい。」

「いつも食べている豚さんや鶏さん、お魚さんも生きてたものを食べてるんだよ。だからありがとうの気持ちで食べてあげないとね。」

長男「うん。。この蟹さんは食べないの?」

長男の指摘はもっともだった。モクズカニはあまり食べるところがないが、そういうわけにもいかないと思ったため、蟹の身をそこげ取って食べた。

その後、ありがとうを言ってお別れした。長男は落ち着いていた。小さい身体でたくさん考えただろう。

とても辛かったはずだけど、目を背けずに自ら蟹を見たいと言った長男の気持ちに感極まった。とともに罪悪感もあった。罪悪感を感じた自分に偽善も少し感じた。

普段、見知らぬ誰かが食肉用の加工をしてくれるから私たちは意識せずに肉を食べている。命について考えることはあまりない。

それが良いか悪いかは簡単に言えないが、今回の一件で大人にとっても命と向き合うきっかけになったし、長男にとってははじめてのかけがえのない経験をさせてもらった。

蟹が教えてくれた命だった。

ありがとう蟹。忘れられない1日となった。

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